「いい形だなあ……」
白い画用紙に向かい、鉛筆を走らせながら、思わず独り言が漏れました。
今回私が描いたのは、トヨタ・スポーツ800。クルマ好きの間では「ヨタハチ」の愛称で親しまれている、日本が誇る歴史的な名車です。
港を背景に描いた理由
私はドライブが大好き、海までドライブするのは定番になってます。
私が海へのドライブを愛し、今回このヨタハチの背景に「港」を選んだのには理由があります。 大きな岸壁に佇むフェリーや巨大なコンテナ、空を突くクレーン。日常にはない巨大なものが並ぶ港は、どこか異世界のようで、訪れるたびに非日常のワクワクを届けてくれます。
実は私の父は港湾関係の仕事をしており、幼い頃によく港へ連れて行ってくれました。この絵を描きながら思い出したのは、昭和40年代、ちょうどヨタハチが発売された頃の、潮の香りがする記憶です。
ヨタハチの魅力
不思議なもので、絵を描いていると、そのクルマが生まれた時代の空気や、当時の技術者たちのこだわりが、線の一本一本から伝わってくるような気がするのです。
特にこのヨタハチ。港の大きな船の傍らにポツンと佇むその姿を描いていると、わずか800ccという小さなエンジンで、風を切り、軽やかに時代を駆け抜けていった、健気で力強い物語が見えてきました。
実車を所有しているわけではありませんが、こうして筆を動かしている時間は、まるで自分がその車のオーナーになり、港町を旅しているような気分になれます。
今回は、この愛くるしい名車の歴史を紐解きながら、私が絵筆を通して感じた「ヨタハチの真の魅力」についてお話ししたいと思います。
軽量化と空力の結晶「ヨタハチ」の誕生
トヨタ・スポーツ800、通称「ヨタハチ」が登場したのは1965年のことです。
1965年、海の向こうアメリカでは7リッター超の怪物を積んだシェルビー・コブラ427が咆哮を上げ、イタリアではV12気筒のフェラーリ250GTOがサーキットを席巻していました。そんな時代に、日本で生まれたヨタハチが選んだのは、わずか0.8リッターの心臓で「風を味方につける」という、あまりにもストイックな道でした。
特筆すべきは、現代の軽自動車(約800kg〜)よりもはるかに軽い580kgという驚異の車重。 「軽さ」がいかに重要か。それは、久しぶりにジョギングをして膝と心臓が悲鳴を上げたとき、私自身が身をもって痛感したことでもあります(笑)。マラソン選手にふくよかな人がいないように、ヨタハチもまた、速く走るために余分なものを削ぎ落とした「アスリート」だったのです。
- 驚異的な軽量ボディ: この車の最大の特徴は、徹底した軽量化です。航空機技術を応用し、ボディの各所にアルミ合金を採用。その結果、車両重量はわずか 580kg に抑えられました。これは現代の軽自動車よりもはるかに軽い数字です。
- 空気の壁を切り裂くデザイン: 私が絵を描く際にもっとも苦労し、かつ惚れ惚れしたのが、このフロントからリアにかけての流線形です。パワーのない800ccエンジンで最高時速155kmを実現するため、徹底的に空気抵抗を減らす設計がなされました。
- 愛嬌のある表情の秘密: あの丸いヘッドライトや柔らかな曲線は、かわいさを狙ったものではなく?すべては「風を味方につけるため」に計算し尽くされた機能美なのです。
パブリカの心臓に宿った「スポーツの魂」
ヨタハチの心臓部(エンジン)は、実は大衆車である「パブリカ」のものをベースにしています。
- 空冷水平対向2気筒エンジン: パブリカ用のエンジンをツインキャブレターで武装し、45馬力まで高めました。「たった45馬力?」と思うかもしれませんが、前述の超軽量ボディと組み合わせることで、数値以上の軽快な走りを生み出したのです。
- 燃費の良さと耐久性: 空冷エンジンは構造がシンプルで頑丈です。1960年代のレースシーンでは、その燃費の良さと故障の少なさを武器に、より大きな排気量のライバル車たちを相手に互角以上の戦いを演じたという伝説も残っています。
筆を置いて思う、ヨタハチが遺したもの
絵を仕上げ、改めて全体を眺めてみると、ヨタハチが今の時代にも愛され続けている理由がわかる気がします。
それは、限られた条件の中で「知恵と情熱」を絞り出し、最高の結果を出そうとした当時の技術者たちのスピリットが、半世紀を経た今もこのフォルムの中に息づいているからではないでしょうか。
実車をガレージに置くことは叶わなくとも、こうして歴史を学び、その姿を描くことで、私は当時のエンジニアたちの夢に少しだけ触れられたような気がしています。


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